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シャネルの時計におけるクリエイションを担う。

ラ・ショー・ド・フォンで外装製造を極め続ける同社の、J12に代表される外装を多彩に生み出すその実力に迫った。

2000年の登場以来、瞬く間に時計界のアイコンになったJ12。機械式時計×セラミックというカテゴリーにおいて高級感を確立した時計であり、それを叶えた背景にはスイス、ラ・ショー・ド・フォンにある自社工房の存在がある。G&Fシャトランを前身とするこの工房は、シャネルによる買収以前はケースやブレスレットなど外装の専門工場だったが、長年にわたる設備増強によって現在では自社製ムーブメントの設計・組み立て、ジュエリーウォッチのジェムセッティングまでを賄う一大マニュファクチュールとなった。といっても、シャネルにおいて“マニュファクチュール”という言葉が示すものは他のメーカーとは異なるかもしれない。このメゾンには確かなアイコンと現在も続くクリエイションがあり、それを時計において表現するための担い手が“マニュファクチュール”なのだ。今回は初めて現地取材の機会を得たため、その全容をお伝えしたい。

極上シャネルスーパーコピー時計代金引換専門店そら~のマニュファクチュールとは?〜外装〜
メジャーコレクションの外装パーツをほぼ内製する工房
フランス最高峰のメゾンらしく、パトロネージュの精神を重んじるシャネルは、自社の基幹ファクトリーでさえも前身の社名を残している。スイスの名門G&Fシャトラン(以下、シャトラン)は1947年に2人の兄弟によって設立された工房だ。1987年、シャネルが初めて製造した腕時計・プルミエールの外装を手掛けたシャトランとの協業をきっかけに、シャネルのクリエイションを時計として具現化できることを証明。1993年にはシャネルがシャトランを買収したことでシャネルの自社マニュファクチュールとして歩みはじめ、生産を強化するために設備増強がスタートする。1997年、8000㎡の工場を設立し、2000年にはJ12を発表。2012年、ファインジュエリー工房の増設で1万4000㎡に拡張した。2016年にはウォッチメイキングのもうひとつの軸である自社キャリバーを発表し、Cal. 1の設計、組み立てを手掛けるようになる。

現在、シャネルのマニュファクチュールでは60種類以上の職種で約480名の社員が働く。多くが9年以上勤務していて、なかには30年以上勤める方も少なくないというから、いかに労働環境が整備され、なによりシャネルで行われていることが業界でも最高峰のことであるかという証左だろう。なお、この1万4000㎡に及ぶ大きな工場で用いられるエネルギーの12〜17%は太陽光パネルによって賄われているそうだ。

このように大型の工場内では、シャネルにおいて中〜大シリーズにあたるウォッチコレクションのパーツのほとんどが内製されている。文字盤やパッキン、風防のガラスといった特殊なパーツはサプライヤーからの供給となるが、セラミックやステンレスはもちろん、チタンやゴールドまであらゆる素材をここで加工し、ケースやネジのみならずブレスレットのバックルに至るまでを製造する。実はブレスレットは時計パーツのなかでも独自開発が困難でコストも高くつくため、内装しているメーカーは非常に稀だ。そこまでこだわるのは、シャネルがファッションメゾンであることが大きく影響しているだろう(なお同社のそうした側面に焦点を当てた記事はマライカ・クロフォードによるこちらを読んで欲しい)。装身具としての時計に欠かせないブレスレットの出来を、シャネルは自社でコントロールできるのだ。

他社も買い求めるセラミックのハイエンドな品質

J12 キャリバー 12.1 132万円(税込)

高耐性ブラックセラミックケース、38mm径、12.6mm厚。自動巻きCal. 12.1搭載。約70時間パワーリザーブ。200m防水

J12 キャリバー 12.1 132万円(税込)

高耐性ホワイトセラミックケース、38mm径、12.6mm厚。自動巻きCal. 12.1搭載。約70時間パワーリザーブ。200m防水

今回の訪問で何より確認したかったのがセラミックの製造についてだ。旗艦コレクションであるJ12で用いられるセラミックは7つの工程を経ることでシャネルらしい黒と白の色を得る。①細かいパウダー状の原料を日本から買い付け、②ドイツの傘下企業でバインダと混ぜて粒状に加工する。なお、この原料の粉はシャネルのためだけに開発されたもので、ホワイトセラミックの独自の白さの秘訣でもあるという。シャネル自社製セラミックケースがユニークなのは、ここから③インジェクション(射出)成型によって一気にケースの形状に整えること。同社でもかつては焼成後に切削加工を行ってケースをシェイプしていたが、現在ではその必要がないそうだ。④焼成前の準備として溶剤に浸すことでケースの素からバインダを除去。衝撃を与えると崩れ落ちてしまうほどもろい状態だが、この時点でほぼ最終的なケース形状に整っている。⑤ケースは約1300〜1400℃の炉で焼成され、約30%の体積収縮が起こり、その後最終的な仕上げの工程へ移る。⑥ケース表面に研削を施して形状のニュアンスを強調するように調整し、⑦ポリッシングで輝きを与えていく。

最後のポリッシングの工程では、石鹸水と研磨粉、添加剤が加えられた釜の中でケースが12時間にわたってコロコロと回される。これによりJ12特有の鏡面が生まれるのだが、シャネルでは微妙な仕上げの違いによって100以上のレシピを保有するという。これは、すべてのパーツで同じ見た目を与えるためには微妙に異なる仕上げをする必要があるからで、まさに独自に築き上げたノウハウだと言える。

バインダと混ぜて作られたセラミックの原料。

インジェクション成型で整えられたケースの素は、タワーのように並べられて一度に数百個ずつ炉の中で焼成される。

できあがったケースは全数が検査の対象だ。その後、ケーシングされ独自の厳しい基準に照らしたテストが行われる。J12では200m防水を叶えるための厳格な防水テストを課すモデルもある。

なお、本工房は世界で3社しかない規模で最高峰セラミックの品質を叶える工場であり、ここで製造されたセラミックは他のスイスメーカーも買い求めている。それほど彼らのセラミックが特別なのは、上で説明した①、②、⑦の3つの工程をすべて社内で管理できているから。そしてなおJ12のセラミックが特別なのは、独自のインジェクション成型によってより複雑なケース形状を実現できるようになったことが最大の理由だ。シャネルでもかつては焼成と切削を組み合わせてケースを製造していたというから、現在までの進歩が目を見張るものであることが分かるだろう。インジェクション成型の質が向上した近年、よくよく見るとミドルケースの形が変わり、裏蓋の取り付け部分に角が与えられてメリハリの効いた精度の高い形状へと進化している。

多品種生産を叶えるためのクリエイションの要は切削加工の精度

シャネルでは現在、伝統的なプレスによる加工と切削を使い分けてパーツ製造を行っている。とりわけユニークなのが素材から直接削り出す切削加工だ。通常は棒材などのマテリアルを旋盤の軸にセットして削り出しを行うことが多いが、この工房では機械加工の精度を極限まで高めたことで難しい形状のパーツほど直接削り出しを選択するのだという。シャネルで許容される公差は1000分の1mmほどで、プレス加工でこのような精度を得ることは難しい。シャネルはこの方法を取ることで工作精度が得られる上に“時間の節約になる”と語っており、だからこそ例えばプルミエールのブレスレットのような細かく複雑なパーツの製作が可能になったのだろう。

元々同社では、ブレスレットとクラスプを1本の棒材から削り出して作っていたことからこうした工法が発達したというが、ここでは1つの旋盤で90種類のツールを用いることができ、170種類のパーツを削り出すことが可能だそうだ。33名のスタッフがこのセクションに従事して、多品種から構成されるシャネルのウォッチコレクションを具現化する。なお、これは顧客ごとにパーソナライズされたものを提供するというオートクチュールの発想に連なるシャネルの生産スタイルである。もちろん、それとほぼイコールと言える時計は同社がハイエンドに位置づけるオート・オルロジュリーだろう。通常コレクションのラインナップとでは作り込まれるディテールには大きな差があるけれども、それでもシャネルの時計が多品種で作り分けがなされていることに驚かされるはずだ。

シャネルが1987年、一番初めに手掛けたウォッチであるプルミエール。例えばブレスレットは312のパーツで構成されており、1つ1つのリンクは1.5mの棒材からダイレクトに切削される。ちなみに1つのリンクの切削に2分40秒が必要だという。

株式を保有する独立系ブランドとのコラボレーションがもう1つの製造の軸
なお、シャネルの製造体制が特殊なのは内製と外注を巧みに使い分けていること。こう書くと平凡に見えるかもしれないが、彼らがパートナーに選ぶのは一流どころだけで、ケニッシやローマン・ゴティエ、モントル ジュルヌ、今年からはMB&Fなどが名を連ねる。シャネルが元々備えていた製造能力は生かしながら、多くの独立系メーカーと協業関係にあるのがユニークなのだ。こうしたパートナーに発注するパーツは「内製するよりも彼らとのコラボレーションのもとで作った方がよい結果になる」と工場長が語るようなクオリティのものばかりで、「内製すればするほど“真のウォッチメーカー”と呼ばれることがあるが、自分たちのできることに集中してクリエイティビティを発揮する必要があるというのがシャネルの考え方」と理念を示してくれた。

なお、ご存知のとおりケニッシからはJ12に用いるCal. 12.1のベースムーブメントの供給を受けるほか、オート・オルロジュリー用のハイエンドなムーブメントのパーツの一部はローマン・ゴティエから、そしてハイエンドモデルの文字盤にはF.P.ジュルヌ傘下のカドラニエ・ジュネーブ製のものを採用することもある。このように各フィールドで最高峰のパートナーと組みながら、他のどこにもないクリエイションのためにシャネルは自社のリソースを費やすのだ。

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