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パテック フィリップのゴールデン・エリプスが再びブレスレット仕様で登場

現在におけるパテック フィリップのゴールデン・エリプスは、主流のパテックコレクションのなかで傍らに置かれている。ドレスウォッチの熱狂的ファン、ヴィンテージ好き、クイーン、ドレイク、コレクタビリティのジョン・リアドン(John Reardon)を除けば、誰もエリプスに注目していない。ただここ数年における、デザイン主導の時計がソーシャルメディア上で大流行していることを考えると、この時計に焦点を当てるのは少し遅すぎたように感じる。

スーパーコピーブランドn級品 代引きエリプスがどこかに行ってしまったわけではない。1968年からカタログにしっかりと掲載されている。ブルー&ゴールドの文字盤と、イエローゴールドの27×32mmケースにブレスレットを組み合わせた最初のモデルは、いくつかの異なる楕円形のバリエーションへと姿を変えてきた。かつてはブレスレット付きの繊細なYG製ドレスウォッチだったが、現代的な形を取り、より大きなサイズに変わっていった。最近では2008年に、サンバーストブルーダイヤルを備えたジャンボプラチナモデル(5738P-001)がエリプス誕生40周年を記念してコレクションに加わり、2018年にはサンバーストエボニーブラックダイヤルを備えたラージローズゴールドモデル(5738R-001)が、そして2021年には50周年記念モデルとしてプラチナにハンドエングレービングを施したRef.5738/51Gが登場した。

Patek Golden Ellipse on bracelet
先月のWatches&Wondersで、パテックはブレスレットのエリプスを発表した。それは、ブランドの職人的な伝統に敬意を表しつつ、時計に新たな魅力を与える完璧な方法であった。しかし、このブレスレットは単に金属細工の長い歴史を示すだけではなく、時計全体の位置付けを変えている。パテックの意図的な動きであろうとなかろうと、このブレスレットは時計をミッドセンチュリーの原点に立ち返らせ、一部のコレクターやディーラー(ソーシャルメディアで強く存在感を示す人たち)がより無名な70年代デザインを求める、現在の欲求と呼応している。ミッドセンチュリーヴィンテージへのこだわりは、“グラマーへの回帰”と呼ぶこともできるし、トレンドサイクルの必然的な次の段階と呼ぶこともできる。それが何であれ、時計コミュニティに浸透しているのだ。その結果、パテックのエリプスは自信を持ってスポットライトを浴びることになった。

シンプルさというすべてにおいて、エリプスはその時代を代表する時計のひとつとなった。パッと見てすぐに分かる形であると同時に、ユニセックスの魅力を持つ、瞬時に認識可能な形状であった。クリーンかつシンプル、対称的なラインで構成され、その成功はほぼ理想的で均整のとれたバランスに基づいていた。ゴールデン・エリプスは、黄金比/黄金分割として知られる“神聖な比率”に基づいている。これは高さ、幅、体積の関係に関する、何世紀も前からある美的な法則であり、数学的に証明された建築的完成度を表現したと言われている。この古代への敬意は、円でも長方形でも楕円でもない独自の形状をもたらした。

Patek Golden Ellipse on bracelet
エリプスのデザインの進化は比較的単純だ。ブレスレット、ストラップ、さまざまな貴金属、ステップドケース、宝石をあしらった装飾、ミニッツトラック、スモールセコンド、さらにはエリプスとノーチラスのハイブリッド(別名ノーチリプス)というのも登場した。それでも、この“神聖な”形状のおかげでパテックだとひと目で分かる。また60年代末に製造されたため、1970年代に流行した大胆なデザインを持つ時計の先駆けとなった。それは50年代と60年代のより堅実なスタイルと、70年代のまったく自由な実験的スタイルのあいだの小さな架け橋となったのである。

今日、時計は現代の消費者の需要に合うようにサイズが大きくなったものの、オリジナルの形に忠実である(と私は聞いている)。この新しいRGモデルは、直径34.5×39.5mm、厚さ5.9mmで製作。文字盤はサンバースト加工のエボニーブラックで、RGをあしらったバトン型インデックスとスリムなシュヴー(非常に細い)タイプの針が採用されている。リューズにはカボションカットのブラックオニキスがセットされ、ブラックのディテールでうまくバランスを取っている。搭載されているのは超薄型ムーブメントのCal.240。無垢のクローズドケースバックで、防水性は30mだ。

Patek Golden Ellipse on bracelet
さて、ここからが最大の魅力だ。非常に緻密なチェーンスタイルの18KRGブレスレットは手作業でひとつひとつ取り付けられ、研磨されたリンクが細かい列で構成されている。彫刻が施された、3段階に調整できるクラスプは取り外しできない。ブレスレットは363個のパーツで構成されており、そのうち300個以上がリンクである。それぞれのリンクは、職人が金のワイヤーからCNCを使用して製作している。パテック フィリップはその歴史を通じて、職人や専門サプライヤーの技術を手作りのメッシュやチェーンブレスレットのバリエーションで紹介してきた。1960年代後半から70年代は、ブランドにとって金属細工の大いなる実験の時期としても際立っている。新しいブレスレットはクラシックチェーンスタイルでつくられているが、ヴィンテージモデルで見られた技術的な欠点を解消し、現代的な仕様でつくられた。ブレスレットの長さは調整可能で、クラスプ(そのカバーにはブレスレットと同様の連続した彫刻モチーフが施されている)には3つの調整ノッチがある。“このブレスレットは、最初期のメッシュブレスレットから直接インスパイアされている”と、コレクタビリティの創設者ジョン・リアドンは説明する。“クラスプそのものが私の心を捉えて離さない。それは1970年代から1980年代のパテック フィリップで見られたものと、ほぼ同じようにつくられている”。

Patek Golden Ellipse on bracelet
新しいエリプスは控えめでありながら適度な華やかさを備え、上質だと感じられる一種のラグジュアリーアイテムである。抑制が効いていながらもインパクトがあるのだ。自分の手首を見つめながら、“パテックを身につけているけど、叫ぶ必要なんてない”とでも言いたくなるような、偏狭な時計知識のプライドを感じさせる時計だ。そしてそれは、静かなクラシックへの回帰という、いまのファッションの方向性と一致している。すっきりとしたブラックエボニーの文字盤は、ミニマリストの夢を形作るものであり、繊細に織られたブレスレットは、まるでスコットランドの奥地の村にある最高級の伝統的カシミアブランドでのみ使われる編み模様の一種ではないかと思うほど、複雑に編み込まれたブレスレットと完璧なコントラストを成している。高級品でありながら、控えめな魅力にあふれているのだ。

Patek Golden Ellipse on bracelet
エリプスが見過ごされているというわけではない。ただヴィンテージのアンダードッグ的栄光を求めるものではないからだ。おそらく、エリプスがあまりにも古典的なので、騒がれる必要すらないのかもしれない。誰も白いボタンダウンのドレスシャツやリーバイス501の復活については話題にしないだろう! 純粋なライン、シンプルな文字盤、そして控えめな美的インパクトを持つ。自分だけのスタイルを持つ人に語りかけるような時計だと思う。既存のワードローブに自然と溶け込み、中心的な存在である必要はない。既存のストラップモデルのほぼ倍の価格だが(税込584万円に対して、新作は税込951万円だ)、ブレスレットは新しいカテゴリーの価格を保証するものである。ドレスウォッチからドレスジュエリーウォッチのハイブリッドへと進化したのだ。それにもかかわらず、エリプスは控えめである。ブレスレットは無理な復刻に見えない完璧なヴィンテージ感を与え、ミッドセンチュリー期に磨き上げられたエレガンスのスタイルを、巧みに前進させているのだ。

パテック フィリップ ゴールデン・エリプス、Ref.5738/1R-001。ローズゴールド製ケース、39.5×34.5mm径、5.9mm厚。全面ポリッシュ仕上げのRG製チェーンスタイルブレスレット。彫金を施したRG製クラスプ(3つの調整ポジション付き)。超薄型自動巻ムーブメント、Cal.240搭載。27.5mm径×2.53mm厚。

グランドセイコー史上初となる機械式複雑時計は、今回新たなコンセプトのもとにさらに20本が追加製造された。

グランドセイコーは2年前に、おそらく多くの人がとっくの昔にブランドが達成しているものだと思っていたであろうこと、すなわち初の機械式コンプリケーションウォッチの発表に踏み切った。グランドセイコーは、機械式時計製造における卓越性、最高級の仕上げ、スプリングドライブムーブメントが象徴する創造性、そして独創的なデザインを持ちながら、2022年まで創業から62年ものあいだ機械式のコンプリケーションモデル(GMTを除く)を製造していなかったのだ。しかし彼らは、Kodoをもって見事に成し遂げてみせた。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
グランドセイコーの初代コンプリケーションモデルことRef.SLGT003は、コンスタントフォース機構を備えたトゥールビヨンという、まさにコンセプトカーのような時計であった。日本語で心拍を意味する“鼓動(Kodo)”と名付けられたこの時計は、グランドセイコーのすべてを凝縮していた。また、このモデルはGPHGでクロノメトリー賞を受賞している。光と影を巧みに表現した針やインデックスに加え、高度に磨き上げられた表面とダークな色調で仕上げられたオリジナルKodoの開発秘話についてはジョン・ビューズが取材している。4400万円(税込)、20本限定のこの時計は、懐の温かい大口顧客だけに許された時計であった。しかしこの時計は、ブランドのコレクションに単にコンプリケーションモデルが加わったという以上のものを意味していた。そしていま再び、リシャール ミルスーパーコピーn級品より明るく、しかしそれに勝るとも劣らない大胆なフォルムで我々の前に姿を現した。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
新しいグランドセイコーのKodo "薄明” Ref.SLGT005は、前作のスタイルを継承している。同じくコンスタントフォース(定力装置)機構が付いたトゥールビヨンムーブメントを搭載したこの時計は、少し明るい配色になったとはいえ、実に見慣れた外観をしている。前回のKodoと同様にインナーケースとベゼルはプラチナ950製で、外側のケースサイドとベゼルはブリリアントハードチタン製だ。しかし今回は、“薄明”のテーマを際立たせるシルバートーン仕上げが施されている。

グランドセイコーの担当者によると、前作のKodo発表時はすぐにオーデマ ピゲやリシャール・ミルといったブランドのVIPたちからの問い合わせが殺到したというが、その理由も納得できる。4400万円(税込)という価格であるために、顧客は単に希少性だけでなく、それ以上のものを求めるケースが少なくないだろう。グランドセイコーのコレクションにはこれまでKodoのようなモデルはなかったが、オーデマ ピゲやリシャール・ミル(あるいはランゲのようなブランド)が得意とする奥深さ、複雑さ、オープンワークというテーマが息づいている。ランゲのダトグラフを眺めていると、そのムーブメントに吸い込まれてしまいそうになる。オーデマ ピゲやリシャール・ミルのオープンワークを目にしたとき、視覚的な複雑さが高級感を醸し出し、ブランドが誇る技術的な側面を際立たせているように感じられる。“薄明”のテーマに便乗すると、Kodoはグランドセイコーの新時代の幕開けであり、私たちがグランドセイコーに望む長きにわたるブランドの方向性を示すものである。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
私は前作のKodoを直接見ることはできなかったが、今回の“薄明”は前作とほとんど違いがないにもかかわらず、その第2弾として私を驚嘆させた。さながらWatches&Wonders 2022における巡礼地のひとつであるかのように、前作のKodoについては絶対に見るべき作品であるとダニーが紹介記事のなかで述べている。その衝撃は、決して第1弾に劣るものではなかった。Watches&Wondersでの(セイコーの)最後の回にジェームズとベンと一緒に参加したのだが、ふたりともKodoを見るのが目的だったらしい。私が手早く写真を撮ったあとで輪になって時計を受け渡し、おのおのが時間をかけて鑑賞しながら、グランドセイコーの新時代の息吹に感嘆していた。さらに写真を撮るためにもう1度時計を返してもらったのだが、自分が繰り返し同じ部位に目を奪われていることに気づいた。複雑なビジュアルと革新的な機構を備えたこの時計は、正面から見るとシンプルですっきりとしたデザインにまとめられている。時を告げる針、パワーリザーブインジケーター、トゥールビヨンなどあなたの視線は瞬間的に次々とこれらの要素を巡り、そしてそれを繰り返すのだ。

裏面を見て、私はさらに感動した。表側からはムーブメントが完全に宙に浮いているように見えるが、裏側を見てみると、メインプレートに相当量の細工が残されていることがわかる。より劇的な効果を得るためにどのパーツを取り外すべきかを、グランドセイコーがいかに慎重に決定したかが分かる。前面のスケルトン化されたブリッジは、クレドール 叡智IIなどに見られるような技巧的な仕上げの巧みさを示している。一方で裏面からは、並列して作動する二重香箱など、グランドセイコーの64年にわたる時計技術の革新が感じられる。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
見た目の美しさだけでなく、グランドセイコーがもっとも称賛されるべきはこの点である。基本的にはゼンマイが巻き戻されるとリザーブが枯渇するにつれてトルクが減少し、振動子への動力供給と振幅は低下し、その結果として時計の振動は速くなる。グランドセイコーは、この問題をコンスタントフォースで解決している。コンスタントフォースとは、トゥールビヨン脱進機に直接エネルギーを伝えるために、そのトルクを均等にする緩衝作用を持つ機構である。

コンスタントフォースとトゥールビヨンを組み合わせた時計としてはF.P.ジュルヌのトゥールビヨン・スヴランが有名であり、これ自体はそれほど目新しいことではないように聞こえるかもしれない。ジョージ・ダニエルズをはじめこのコンセプトを採用したモデルはほかにもあるが、ジュルヌの偉業がどれほど名を馳せているかはともかく、このふたつの組み合わせがどれほど希有なものであるかは言うまでもない。裏側と表側の両面から見えるようにトゥールビヨンは入れ子構造になっており、トゥールビヨン用のケージとコンスタントフォース用のケージを備えている。その両方が、吊り下げられた大きな上部構造のなかに収められている。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
トゥールビヨンが1秒間に8回前進する一方でコンスタントフォースのケージはエネルギーを蓄積し、1秒間に1回動作して振動を伝え、同時にデッドビート・インジケーターの役割も果たしている。ご覧のように、コンスタントフォースのケージアームにはパープルのジュエルがあしらわれている(ムーブメントのほかのジュエルはブルーサファイアで、“薄明”というコンセプトを踏襲したユニークな選択である)。また、ムーブメントの裏側には“Sixteenth Note Feel”というエングレービングが施されているのがお分かりいただけるだろう。これは、ムーブメントの2万8800振動/時の振動数と、Cal.9ST1がメトロノームを彷彿とさせる一定のリズムで同期するパルスを備えていることに由来する。たいていのコンスタントフォースは完璧に同期しているわけではない。これは、ブランドの功績を讃えるちょっとしたおまけみたいなものだ。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
Kodoはグランドセイコーが誇る最高峰のケース仕上げのすべてを備えている。ザラツ研磨による鏡面仕上げの部分もあればサテン仕上げの部分もあり、光と影のドラマを生み出している。ブリリアントハードチタンはもはやKodoだけのものではなくなってしまった(今年グランドセイコーからリリースされた私のお気に入りのひとつ、ハイビートの手巻きドレスウォッチにもこの素晴らしい素材が使用されている)が、今回この素材が使用されたことで、グランドセイコーが過去に持ち得なかった技巧的で未来的なデザインが強調されている。白漆を何層にも塗り重ねたホワイトのレザーストラップとの組み合わせにより、グランドセイコーらしい洗練されたパッケージに仕上がった。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
ディテールに話を戻すと、この時計は正面側8時位置にパワーリザーブインジケーターを備えている。フロントとリアに施した面取りと高級仕上げは、アトリエ銀座のチームによるものだ。また、文字盤側のデザインが完全にオープンな割には、驚くほど視認性が高い。そう、サイズは直径43.8mm×厚さ12.9mmとかなり大きいが、ケースのほぼ端から端まで届くムーブメントとディスプレイを備えた時計の視覚的なインパクトにマッチしている。チタンを使用しているため、手首に装着してもそれほどかさばる感じもない(また10気圧防水を備えているため、必ずしも防水性と複雑さの二者択一を迫られることはない)。しかし視覚的なインパクトは絶大で、これほど複雑な時計がこれ以上小型になる(あるいは小さく見せられる)とは誰も思わないだろう。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
前作のKodoと同様に新しい“薄明”は20本限定となっており、2024年12月以降順次納品を予定している。しかしながら、グランドセイコーのチームは今作を10年にわたる研究開発期間を讃えるものとして、総生産本数はわずか40本にとどまると教えてくれた。グランドセイコーはドレスウォッチ、GMT、クロノグラフなどの分野で、ジャパニーズモダンデザインとクラシックなスタイルを融合させたヒット作を世に送り出してきた。しかし、“Kodo”ほどその実力を存分に発揮したモデルはない。グランドセイコーから近い将来、このダイナミックで未来的なスタイルの続編が発表されることを期待している。

The Grand Seiko Kodo "Daybreak"
グランドセイコー Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン Ref.SLGT005の詳細については、こちらの紹介記事か、グランドセイコーのウェブサイトをご覧ください。

クリスティーズはシューマッハの時計9点をオークションに出品した。

ときには、時計自体ではなく、その裏にある物語が重要になることがある。ポール・ニューマンの“ポール・ニューマン”デイトナは、そのモデルの最高の例というわけではなかったが、彼の“ポール・ニューマン”だったから高名となったのだ。そして今週行われるクリスティーズ・ジュネーブオークションで出品されるある個体のように、その両方の要素を持つ時計が現れることもある。というのもクリスティーズが販売しているのは、単に伝説的な人物が所有していた時計というだけではない。レジェンド的人物がオーダーし、また別のレジェンド的人物が製作した時計を、ウブロスーパーコピーn級品 代引きそのスポーツにおける史上最高の人物、ミハエル・シューマッハを称えるための贈り物として出品しているのだ。

Michael Schumacher's Watches
今週末のクリスティーズのオークションは、実際には“ミハエル・シューマッハの所有物を含むレアウォッチ(Rare Watches Including the Property of Michael Schumacher)”と題され、F.P.ジュルヌの“ルテニウムコレクション”の全セット(99セット中92番目のセット)が同オークションに出品される(セット用のボックスも含む)。推定価格は最低でも15万スイスフラン(日本円で約2562万円)から。クロノメーター・レゾナンスやトゥールビヨンモデルに至っては最大50万スイスフラン(日本円で約8541万円)に達する見込みである。またデイトナも2本あり、ひとつは交換されたベゼルと追加の“ポール・ニューマン”ダイヤルを持つ金無垢のRef.6241で、もうひとつはRef.6262の“ポール・ニューマン”である。しかし、これらは量産品だ。ストーリーの観点から見る場合、真のハイライトはオーデマ ピゲとF.P.ジュルヌのふたつのユニークピースである。

AP Michael Schumacher
ホワイトゴールドのオーデマ ピゲ ロイヤル オーク クロノグラフは2003年製で、推定価格は15万~25万スイスフラン(日本円で約2565万~4280万円)だ。6時位置のインダイヤルにはアイコニックな“跳ね馬”エンブレム、9時位置にある12時間積算計にはフェラーリの赤と黄色のヘルメットがデザインされている。時計は長年(誇らしげに)使われてきたようで着用感があり、ベゼルには傷が見られる(世界チャンピオンでもロイヤル オークの傷は避けられない)。特に3時位置のインダイヤルと裏蓋には、特別なカスタマイズが施されている。

AP Michael Schumacher
3時位置のインダイヤルの中央には6つの星と数字の“1”があしらわれており、これはシューマッハがオーダーするまでに獲得した6度のF1ワールド・チャンピオンシップに対して敬意を表したものだ。時計の裏側には、シューマッハがチームベネトンで優勝した1994年と1995年、フェラーリで四連覇を達成した2000年と2003年を囲む月桂冠があしらわれている。“Royal Oak”の刻印の下には、当時スクーデリア・フェラーリのレース部門のゼネラルマネージャーであったジャン・トッドから、シューマッハへのクリスマスの贈り物として心温まるメッセージ、“J. Todt pour M. Schumacher, Noel 2003”が刻まれている。

AP Michael Schumacher
翌年、トッドはシューマッハの当時の記録である7度目のワールド・チャンピオンを、今度はF.P.ジュルヌのユニークな作品で祝した。2004年に製造されたプラチナ製のこのユニークなヴァガボンダージュ1は、この時計が実際に市販される2年前(2006年)につくられたもののため、現存するヴァガボンダージュの初期モデルのひとつとなる。さらに推定価格は驚異の100万~200万スイスフラン(日本円で約1億7085万~3億4180万円)と、非常に高額だ。

FPJ Michael Schumacher
ヴァガボンダージュはF.P.ジュルヌにとって、長い歴史を持つ興味深い時計である。1997年、フランソワ=ポール・ジュルヌは“カルペ・ディエム”と呼ばれるユニークな時計を製作した。それは中央に見えるテンプを中心に、ジャンピングアワーとワンダリングミニッツを備えた自動巻きムーブメントを搭載していた。2003年までに、彼はICMチャリティーオークションのためにローズゴールド、イエローゴールド、WGの3種類の金属で、同じワンダリングアワー表示とセンターテンプを備えた3本のユニークピースを製作し、それをヴァガボンダージュと名付けた。この時計は最終的に3つのシリーズで製造され(最後のシリーズは2017年に発表)、その後生産終了となった。

FPJ Michael Schumacher
この裏にもジャン・トッドからミハエル・シューマッハへのクリスマスプレゼントとしての刻印がある。文字盤は前モデルよりも明らかに“フェラーリ”らしい特徴を持っている。F.P.ジュルヌ(彼とブランドの両方)はトッドと密接な関係にあり、2022年のクリスティーズにて200万スイスフラン(当時の相場で約2億4555万円)近くで落札されたこのサンティグラフのように、ユニークな作品を製作してきた。同じくフェラーリレッドが、サンティグラフの量産モデルにも施されることになる。

ここでは、通常の12個のインデックスではなく10個のインデックス、フェラーリのエンブレム、シューマッハのレーシングヘルメットの写真風プリント、彼の7度のワールド・チャンピオンを示す7つのV(ビクトリー)エンブレムなど、フェラーリのデザインが顕著に見られる。このデザインで一番目を引くのは、独特の低解像度なドットマトリックススタイルの文字盤でレトロな雰囲気を醸し出している点だ。どちらの時計も、今週末のセール開始時には、F1コレクターにとって素晴らしい一品となるだろう。

ロンジン ミニ ドルチェヴィータシリーズを拡充し、

ロンジンはシグネチャーラインの“ドルチェヴィータ”を小型化した。1990年代後半からコレクションの定番となっているこのシリーズは、長方形のケースシェイプと1927年の遺産を取り入れたデザインが特徴だ。ちょうど1週間前、私たちはこのブランドの愛らしいミニチュア版ドルチェヴィータの最新作を目にした。この度新しくデザインされたダブル(ナッパーレザー)ストラップ(数色から選択可能)が展開され、シルバーのフランケ(細かいリブ)ダイヤルが追加された。

Longines Mini DolceVita
ミニ ドルチェヴィータコレクションの人気モデルと同様に、ミニファミリーに新たに加わったこのモデルも、21.5mm×29mmのステンレスケース製レクタンギュラーケースに収められており、好みに応じてダイヤモンドの装飾が施されたバージョンを選ぶことができる。昨年リリースされた定番の“コスモ”ダイヤルを持つミニ ドルチェヴィータは、アール・デコのルーツを捨てたとまでは言わないが、ロレックス スーパーコピーn級品アール・デコ時代のデザインを著しく合理化し、よりミニマルなものに仕上げている。

Longines Mini DolceVita
それと対照的に、シルバーフランケの装飾がされた文字盤は、細長く伸びたローマ数字、波打つギヨシェスタイルの加工、焼き入れされたブルーの針、6時位置に追加されたスモールセコンドのインダイヤルなど、アール・デコの華麗さをより強調している。超小型であることを考えれば、それぞれにクォーツムーブメントが搭載されていることも驚きではないだろう。さらにミニ ドルチェヴィータの各モデルは30m防水となっている。

Longines Mini DolceVita
ロンジンというと、まず航空史の歴史を連想しがちだが、このブランドは馬術の世界とも長年つながりがある。新しいダブルレザーストラップのデザインにはその影響が見られる。例えば、ストラップの穴に沿ってホットプレスで印刷された1から6までの番号は、鐙(あぶみ)革を連想させるものだ。ストラップを広げたときの形は、おしゃれでスタイリッシュな厩舎にあるサドルや、ほかの革製品と一緒に並べてもなじむような印象を与える。

我々の考え
特にニュートラルな色のストラップオプションと組み合わせると、ミニ ドルチェヴィータは、どんなフォーマルな場でも着用できるリトルブラックドレスのような時計だという印象を受ける。ほとんど何にでも気軽に合わせることができるし、たいていうまくいく。そして、一般的にクォーツムーブメントに対する懸念はこのコミュニティ内で流布しているが、ときには女性が巻き上げや時刻合わせを気にせずにサッと時計をつけたいだけということもあるだろう。そう、私は最近、時計愛好家の仲間から、彼女は機械式よりもクォーツムーブメントを好むことが多いと聞いたことさえある。人それぞれだ。

Longines Mini DolceVita
正直に言うと、ダブルストラップ全体のコンセプトに最初はあまり確信が持てなかった。一般的に、変化を求めるときは揃いのブレスレットかシンプルな黒のレザーストラップが定番だ。新しいミニ ドルチェヴィータが正式にリリースされる前に試す機会があったのだが、実際手首につけたときには疑念はすっかり消え去った。ロンジンはストラップのデザインで実に多くのことをうまくやっている。最初に少し苦労したが、ストラップを自分で簡単につけることができ、ゆるめに締めると独特のカフのような効果が得られた。手首には3層のレザーが巻かれているように見えるため、“ダブルストラップ”という言葉も少し語弊があるが、通常のダブルストラップよりもエッジの効いたクールさを感じさせる。

Longines Mini DolceVita
また、ミニ ドルチェヴィータの価格も魅力的であることは確かだ。時計を1日中見ていると、何が手頃で何がそうでないのか、基準がずれることは否めない。とはいえ24万5300円(ダイヤモンドなしのバージョン)をわずかに上回る価格は、現在の時計市場の状況やこのモデルの多用途性を考慮してもそれほど高価すぎるとは感じない。ダブルストラップの新鮮さが薄れた場合でも、いつでもブレスレットに交換して基本に立ち戻ることができるのだ。

基本情報
Longines Mini DolceVita
ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: ミニ ドルチェヴィータ(Mini DolceVita)

直径: 21.5mm×29mm
厚さ: 6.75mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: シルバー
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ナッパーレザーストラップ(2023年に登場したアリゲーターストラップ、ステンレススティール製ブレスレットのモデルも展開)

ムーブメント情報
キャリバー: L178(クォーツ)

価格 & 発売時期
価格: 通常モデルは24万5300円、ダイヤモンドがセットされたモデルは56万1000円(ともに税込)
発売時期: 発売中

カルティエ ロンドンによるただの退屈なモデルか?

ロンドンを拠点とするオークションハウス、ウォッチズ・オブ・ナイツブリッジが、非常に希少な18Kイエローゴールドのカルティエ ロンドン マキシ ロンドを出品する。

いま、カルティエのニッチなアーカイブにまつわる話題がホットだ。ヴィンテージ カルティエのオークション相場が上昇しているのは、ソーシャルメディア上の盛り上がりや、カルティエのやや過激な(しかし間違いなく成功している)マーケティング戦略、セレブリティの起用によるところが大きいだろう。そして言うまでもなく、2022年のペブルや昨年のタンク ノルマルのように本格的なコレクター向けのヴィンテージ復刻も改めて注目を浴びている。企業戦略とオーガニックなマーケティングが絡み合い、どこからが本物のブームなのか、最近はよく分からなくなっているようにも思う。ここ数年、セレブリティや大物コレクターがこの時計メーカーを崇拝するようになったことで、カルティエがそのスタイルを取り戻しつつあるのは確かだろう。

Cartier London Maxi Ronde
一方でベン・クライマーは、カルティエスーパーコピーn級品優良通販店「クラッシュは、いまやありふれたものになった」と淡々と主張している。彼が言いたいのは、セレブリティや大金持ちが天文学的な価格の入手困難な(ヴィンテージ)時計や、(現行品でも)注文が困難な時計を身につけている姿があちこちに氾濫しているということだろう。まあ、彼がロンドン クラッシュを例外的なものとしてカウントしていることは付け加えておこう。しかしクラッシュ的なシェイプは飽和状態に達している。コレクターの領分をはるかに超えて、時代の潮流になりつつあるのだ。一部の人間には耐え難いことかもしれないことかもしれないが、私もそうだ!

突然、誰もがクラッシュとは何かを理解し、メゾンのその他のヒット商品についても少しずつ知られるところとなった。カルティエのクラッシュがトリクルダウン効果(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなるとする経済理論)を発揮していることは、最近のオークション結果を見れば明らかだ。昨シーズン、ジュネーブのクリスティーズではクッサン「バンブー」が5万スイスフラン(当時のレートで約840万円)で、カルティエ ロンドンの「ダイス」が13万8600スイスフラン(当時のレートで約2330万円)で落札された。これらのモデルは、事前の見積額を大幅に上回って着地している。そして、今週末のジュネーブ・オークションにも注目すべきだろう。同オークションに出品される特別なカルティエ ロンドンのマキシ ロンドの見積額は4万〜9万英ポンド(日本円で約775万6000〜1745万円)に設定されている。また、レディースサイズのバンブーも同時に出品されており、そちらに興味があれば見積額は6000~1万2000英ポンド(日本円で約116万〜233万円)となっている。

Cartier vintage watches
左:70年代のカルティエ クッサン「バンブー」。右: 1972年のカルティエ ロンドン「ダイス」。

カルティエ ロンドンは一般的に、極めて実験的なイメージが強い。1965年から1973年までパリとニューヨークはカルティエの直営ではなかったが、ジャン=ジャック・カルティエ(Jean-Jacques Cartier)とカルティエ ロンドンのデザイナーであるルパート・エマーソン(Rupert Emmerson)の才能と野心が結集し、デカゴナル、オクタゴナル、マキシ オーバル、マキシ ロンド、ペブル、ロザンジュ、ツインストラップなど風変わりでエキセントリックなモデルが次々に生み出された。

カルティエ ロンドンの最後の年である1972年に製作されたこのマキシ ロンドは、イエローゴールド製としては現時点で2本目、ロンドン製のマキシ ロンドとしては全4本のうちの1本となっている(ホワイトゴールド製は2本存在する)。ジャガー・ルクルト製の手巻きキャリバー(P838)を搭載し、ケース径は35.2mmで厚さ6.55mm。ケースバックにはジャック・カルティエを意味する“JC”の刻印と1972年製であることを示すロンドンのホールマーク、そしてカルティエ ロンドン独自のストックナンバー“1334”が刻印されている。

Cartier London Maxi Ronde caseback
マキシ ロンドは、カルティエ ロンドンが設立したライト&デイヴィス(W&D)の工房で製造されている。 これは戦後の贅沢税により、カルティエ パリ製の人気モデルのロンドンへの輸入が禁止されたことをうけての対応である。W&Dでは主に、カルティエ ロンドンが販売する腕時計を製作していた。1950年ごろ彼らはタンク ノルマルやその他おなじみのモデルを製造しており、ボンドストリートのブティックでカルティエ ロンドンを象徴するようなケースデザインの時計を販売するようになったのは1965年から66年にかけてのことだった。

Cartier London Maxi Ronde on wrist
マキシ ロンドはロンドン カルティエのほかのモデルほど難解ではなく、外観だけを見ればやや控えめな印象だ。「タンク以外のロンドン カルティエがマーケットに受け入れられるかどうかは、非常に興味深いところです」と語るのは、The Keystoneの創設者であり、オンラインオークションプラットフォーム Loupe Thisの共同創設者でもあるジャスティン・グルーエンバーグ(Justin Gruenberg)氏だ。「私にとっては、写真で見るよりも実際に手首の乗せたほうがよく見える、素晴らしい時計です」。グルーエンバーグ氏が購入した最初のカルティエ ロンドンのひとつである1970年製のロンドン デカゴンを、最近私も試着してみた。私たちはふたりとも、この時計がある種の不格好な美しさを有し、グルーエンバーグ氏が私に教えてくれたように“Jolie Laide(フランス語で、美人ではないが愛嬌のある女性)”であることに賛同した。マキシ ロンドとは正反対の、トレンドを感じさせるルックだ。

これはきっと、見た目の美しさではなく、希少性について語るべき時計なのだろう。華やかさにはいささか欠けるマキシ ロンドの生産数はごくわずかで、「このロンドンウォッチが“ハンドメイド”で製造されていたという事実を物語っている」と、HODINKEE専属のカルティエ研究家であるトニー・トレイナは説明する(私がSlackで彼に意見を求めたあと)。「よく考えてみると、“退屈な”丸型のカルティエというのはヴィンテージカタログのなかでも比較的珍しく(そうそう、ロンドのことね)、その事実だけでもおもしろい。それに古いジャガー・ルクルトのムーブメントはいつ巻き上げても素晴らしいものだね」。トレイナに対して、これはクラッシュのブームに対する非常にまっとうな鎮静剤かもしれないと冗談を言った私に、彼は「確かに“ああ、クラッシュやその他もろもろも楽しかったけど、60年代はもう終わったんだ。ラウンドウォッチに戻ろう”って感じだね」と返した。

Cartier London Maxi Ronde
次に何が起こるかは誰にもわからないが、カルティエ熱はすぐに冷める気配はない。 それはブランドがポップカルチャーに長きにわたり与え続けてきた影響の証明である。それこそ王侯貴族から、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler the Creator)までだ。時計界のマニアたちはカルティエの人気はピークに達したと言うだろう。だが、このハイプが一風変わったルックスから来るものなのか、それとも希少性が需要を生むというもっと予測しやすいシナリオに帰結するものなのかは、興味深いところである。

アメリカのウォッチメイキングにスポットライトを当てるコーネル・ウォッチ・カンパニーとは?

アメリカの老舗時計ブランドを復活させるなら、時計職人のローランド・マーフィー(Roland Murphy)氏と提携するのはいいスタートだ。ペンシルバニア州ランカスターを拠点とするこの時計職人は、多くの人にとってのアメリカのウォッチメイキングの象徴的な存在である。そのため、シカゴ出身のジョン・ウォーレン(John Warren)氏が19世紀に故郷で創業した懐中時計メーカーであるコーネル・ウォッチ・カンパニーを再興させたいと決めたとき、マーフィー氏に連絡を取ることにした。

ポール・コーネル(Paul Cornell)は1870年にコーネル・ウォッチ・カンパニーを設立し、ニューアーク・ウォッチ・カンパニーやボストン・ウォッチ・カンパニーといったほかの偉大なアメリカンウォッチメーカーから直接系譜を受け継いでいた。IWCの共同創設者のひとりは、経営難に陥っていたコーネルを助けるためにシャフハウゼンからはるばるシカゴまでやってくるなど、IWCとの関連性もある。オーデマ・ピゲ スーパーコピー代引きしかし残念ながら、それはうまくいかなかった。シカゴ大火と金融危機が重なって、コーネルは1870年代半ばに急速に閉鎖したのだ。

ウォーレン氏がコーネルに夢中になったのは、シカゴの大学で古いアメリカ製の懐中時計を集め始めたときだ。彼は特にコーネルのムーブメントに注目し、その構造や石数、さらにはサインに見られる変化に注目した。彼はコーネルの歴史に魅了され、また地元とのつながりに気づいたとき、その名前を復活させることを決意した。

ウォーレン氏は当初、マーフィー氏にコーネルの古い懐中時計からインスパイアされたカスタム時計を家族や友人向けにつくってもらうよう依頼した。彼は(マーフィー氏のブランドである)RGMのカスタマイズプログラムを使って、コーネルの懐中時計の美しいエナメル文字盤とムーブメントにインスパイアされた時計をデザインしようと考えていたのだ。しかし、マーフィー氏と協力をするうちに、ウォーレン氏は単なる友人や家族向けのプロジェクト以上のものになり得ると感じ、コーネル・ウォッチ・カンパニー再興へと生まれ変わった。

このコラボレーションから生まれたのが、オリジナルのコーネル懐中時計へのオマージュを込めたコーネル 1870 CEである。インスピレーションは、黒いローマ数字とブルースティール針を持つ白のグラン フー エナメル文字盤から着想を得た。そのエナメルはシカゴの新雪のようにきれいで豊かである。またウォーレン氏は、アンティークのコーネルの懐中時計も貸してくれたが、それと比べても類似性は明らかであるが、1870 CEには、RGMにおける現代の技術の粋が込められている。

この時計はマーフィー氏による新しいケースデザインが採用されている。316LSS製で、サイズは39mm径×11.3mm厚(ケース部分だけだと10mm)、ラグからラグまでは48mmである。ケースはていねいに作られており、主にサテン仕上げだが、ラグの面取りとベゼルはポリッシュ仕上げされている。ラグは少し下向きにカーブしていて、ケースの装着感を向上させている。厚く感じるわけではないが、1870 CEがもう少し薄ければ、薄くてエレガントなドレスウォッチとして際立っていただろう。

サファイア製のシースルーバックから見えるのは、1870 CEに搭載される、シュワルツ・エティエンヌ製ASE 200ムーブメントのマイクロローターだ。RGMによってさらに手作業で仕上げ、テスト、調整されている。これは約86時間のパワーリザーブ、フィリップスターミナルカーブを持つらせん状のヒゲゼンマイを備え、2万1600振動/時で時を刻む、技術的に堅実なムーブメントだ。

私はアメリカ中西部で育ち、10年以上にわたりシカゴを拠点としてきたため、コーネルの物語には共感しやすい。エルジン、イリノイ、ロックフォードといった名前は、文字盤上で見慣れている。週末に行われるフリーマーケットやガレージセールでは、インビクタの時計を超えるほど山積みになっているのを見る。それ以上に、文字盤を飾る何の変哲もないアメリカのメインストリートの町々は、私にとって実生活の場所であり、トウモロコシ畑が広がるフライオーバー地方に点在する抽象的な場所ではない。きっとスイスの人々も、文字盤にジュネーブやル・サンティエと書かれているのを見たとき、同じように感じるのだろう。ぜひ、その価値を当たり前だと思わないようにしよう!

さらに見るべきもの: アメリカ時計大紀行

アメリカの時計製造の歴史については、こちらの全4回にわたるシリーズをご覧あれ。

しかし、ウォッチメイキングにおいて感傷だけでは限界がある。1870 CEは現代の“市場”によって埋もれ、忘れられてしまった美しいアメリカの懐中時計からインスピレーションを得てていねいにつくられた、きれいに身につけられる時計である。この時代のアメリカンウォッチメイキングにインスピレーションを求めたのはコーネルが初めてではないが、現代的かつ思慮深い方法で、これほど美的な要素を取り入れている時計はほかにはない。多くのほかの試みは、懐中時計のアイデアを無理に小さな時計に押し込むことで、どこかぎこちなく感じられるのだ。

コーネルにとって、この1870 CEプロジェクトはアメリカのウォッチメイキングに光を当てるための、より大きな取り組みの始まりにすぎないことだ。例えば、販売された各時計のうち500ドルが、ニューヨーク時計協会の奨学金プログラムに寄付され、時計職人の育成に使われる予定である。

cornell watch chicago 1870 CE
ウォーレン氏と私は、アメリカの時計メーカー、技術者、部品メーカーの名簿を作成して編集し、既存の、そして将来有望なアメリカの時計会社を支援しようという、コーネルの広範な取り組みについて何度か話したことがある。1800年代後半から1900年代初頭にかけて、アメリカは世界のどの国よりも多くの時計を製造しており、その多くのプロセスが現在時計業界を支配する日本やスイスのメーカーの基礎となっている。

cornell watch chicago 1870 CE
重要なのは、アメリカを時計の大量生産の地に戻し、最大のメーカーと競争させることではなく(それは実用的でも現実的でもない)、アメリカのウォッチメイキングを合理的に支援することだ。ほかの時計職人からも同様の声を聞いたが、国内には時計製造に応用できる製造技術や職人技が豊富にある。しかし、それらを特定し、促進するのは難しい。

マーフィー氏とのコラボレーションによって始動したコーネル・ウォッチ・カンパニーは、アメリカのウォッチメイキングの過去、現在、そして願わくば輝かしい未来の最高の部分を浮き彫りにする時計をつくり上げたのである。

コーネル 1870 CEの今年の初回生産分10本は抽選で割り当てられ、までコーネルの公式サイトから応募可能です(2024年5月現在は締切)。抽選に参加する際の費用や、購入の義務はありません。1870 CEは限定モデルではありませんが、毎年の生産数は限られます。

H.モーザー ストリームライナー シリンドリカル・トゥールビヨン スケルトンのピンクモデルでF1マイアミの開幕を飾る

グランプリを控えた今週末、モーザーはアルピーヌF1チームとモーザーの新しいブランドアンバサダー、ピエール・ガスリー(Pierre Gasly)氏との新たなパートナーシップを強固なものにするために、数週間前に発表したブルーのストリームライナー シリンドリカル・トゥールビヨン スケルトンの後継モデルを発表した。この時計には、BWTアルピーヌF1チームのユニフォームを表すブルーのアクセントが付いている。もちろんF1を知っている人なら、チームのスポーツカラーはブルーだけではないことをご存じだろう。100本限定生産のLEがブルーだったのに対し、今回は20本限定生産のシリンドリカル・トゥールビヨンがピンクで登場する。

Moser
ピンクバージョンは基本的にブルーと同じだが、ストラップの色が印象的なピンクに変わったほか、12時位置に鮮やかなピンクの小さな文字盤が付いている。42.3mmのケースはドーム型のサファイアクリスタルが施されたスティール製で、ゼニススーパーコピーエレガントにスケルトナイズされたダイヤルには、夜光マーカーとインデックスが配置されている。

モーザーは自社製のHMC 811ムーブメントを使って本物の芸術作品を創造した。ムーブメントの立体感を感じさせると同時に、時計をとおして直接手首の下を見ることができる。

Moser
昨夜のレース開幕記者会見で、モーザーのアンバサダーとして最初の質問に答えるために表彰台に上がったガスリー氏は、1本ではなく2本の時計を身につけていた。どちらもピンクとブルーのモーザー限定モデルである。将来、誰もがこのような機会を得ることはないだろうが、2色のカラーが並んだ時計を見るのはとてもクールだった。

我々の考え
モーザーのF1参入は、それ自体がニュースだ。(創業者の)メイラン家はこのブランドを新しい時代に導き、毎年、高級時計の新鮮なテイクを提供してきた。私はしばしば、ピクセル化された消しゴムや“Apple Watchと呼ばないで”と言わんばかりの時計など、より活気に満ちたリリースを思い出す。しかしここ数年、ストリームライナーはさまざまな意味で有名になり、モーザーの中心的なモデルとしての地位を確立している。

Moser
ブランドの基盤が拡大するにつれて、彼らが新しい分野に進出するのは当然であり、アルピーヌとのパートナーシップは確かに新境地である。これはモーザーのブランディングに対するスタンスを考えるとさらに明確である。ほとんどの場合、その時計のダイアルにはブランド名が表示されず、表示されている場合でもほとんど目立たない。しかしアルピーヌが魅力を感じたのは、自らのブランド理念へのこだわりであり、派手さへのこだわりよりも技術へのこだわりをアピールするためでもあったのだ。

したがってこの最初のパートナーシップは、典型的なレーシングウォッチではなく、むしろモーザーが得意とすることをさらに追求してひねりを加えたものである。数週間前ブルーエディションを聞いたときは気に入っていたが、いま両方の時計を見て、ピンクがとてもクールだと断言できる。失敗しやすい色のひとつであるが、このデザインに程よい派手さを加えている。

Moser
手首に装着すると、42.3mmのサイズは41mm装着感に近く感じられる。ラバーストラップは、モーザーが常に行ってきたこと、つまり時計業界ではあまり注目されていないのだが、最高のラバーストラップを提供している。もちろんこれは20本のみの限定モデルなので、8万9000スイスフラン(日本円で約1505万2000円)という価格を考えると、世界中で多く見かけることはないだろうが、F1マイアミと、いつも我々を興奮させてくれるブランドとの新しいパートナーシップを祝うには本当に素晴らしい方法である。

基本情報
ブランド: H.モーザー(H. Moser & Cie)
モデル名: ストリームライナー シリンドリカル・トゥールビヨン スケルトン アルピーヌ 限定モデル ピンク(Streamline Cylindrical Tourbillon Skeleton Alpine Limited Edition Pink Livery)
型番: 6811-1202

直径: 42.3mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: スケルトン、12時位置にピンク文字盤
インデックス: アプライド
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 120m
ストラップ/ブレスレット: ピンクラバーストラップ

Moser
ムーブメント情報
キャリバー: HMC 811
機能: 時・分
パワーリザーブ: 約74時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 28

価格 & 発売時期
価格: 8万9000スイスフラン(日本円で約1505万2000円)
発売時期: モーザーオンラインストアのみ
限定: あり、世界限定20本

今年も世界最大級の時計見本市が幕を閉じた。

今年も時計界最大の見本市であるWatches & Wonders 2024が開催された。今年は出店ブランド数が増加(46ブランドから54ブランドへ)しただけでなく一般公開日も追加されるなど開催前から何かと話題になっていたが、会期中は我々HODINKEE Japanも参加し、連日現場からホットな情報をお届けしていた(Youtubeチャンネルで各ブランドの速報動画もアップしている。見てみて欲しい)。今回はサプライズに満ちた新作群のなかから、各編集部の記憶に残った時計を紹介していく。Watches & Wondersに関する記事もチェックしながら、ぜひ自分のお気に入りの1本も探して欲しい。

カルティエ 「サントス デュモン リワインド」
BY MASAHARU WADA

2024年のカルティエスーパーコピーn級品 代引きのリリースで最も目立っていたのはおそらく「トーチュ」コレクションでしょう。もちろんそれらも素晴らしいものでしたが、個人的に一番惹かれたのは「サントス デュモン リワインド」でした。歯車を追加して、ただ時間表示がリワインドしている(巻き戻される)だけではないのかと思うかもしれませんが、実はそこに大きな意図が隠されているのではないかと思ってしまうのです。そう思うようになったのは、僕の友人でニューヨークで時計店Carat&Co.を経営するデレック氏(@theminutemon)と会話をしたことがきっかけ。

リワインドの背景を考えるためのキーは3つあります。まず最初の出発点は「時計の運進がなぜ右回りなのか」ということ。これは諸説ありますが、地球にあった多くの文明が北半球にあったからというのが大きな理由とされています。北半球で日時計を見ると影は右回りに動いていますよね。そのため時計回り=右回りなのです。では逆回転になるのはどこでしょうか...。

Photo by Masaharu Wada

これを理解する上で最初に考えるべきは「時計の運進がなぜ右回りなのか」ということ。これは諸説ありますが、地球にあった多くの文明が北半球にあったからというのが大きな理由とされています。人類最古の時計は日時計で、紀元前5000年ごろのエジプトが発祥とされています。エジプトのある北半球で日時計を見ると影は右回りに動いていますよね。時計回り=右回りはここら来ているのだろうということ。では逆回転になるのは地球上でどこでしょうか?

簡単すぎましたね。そう答えは南半球です。北半球で定められた右回りのルールに南半球が倣ったことで、時計回りは右回りという今の世の中の常識が定められているのです。ひとつめのキーは南半球。

Photo by Masaharu Wada

では、次のキーはというと「サントス デュモン」ウォッチの出自にあるのではないでしょうか。「サントス デュモン」をカルティエに発注したのは、ご存じのとおりアルベルト・サントス=デュモンです。彼はブラジル出身の飛行家で、操縦桿を握りながらでも計時ができるようにと要望してできたもの。ブラジルは南半球に位置します。つまり日時計が左回りになる国。

そして3つめのキーは本モデルのカーネリアンラッカーのダイヤルです。素材であるカーネリアンの原産国はインド、ウルグアイなどもありますが、ブラジルもそのひとつ。カーネリアンのダイヤルはカルティエのブランドカラーでもある深い赤いカラーです。世界初の腕時計がカルティエであったという誇りをアピールしているかのように感じます。


ケースバックの「サントス デュモン」のロゴも鏡文字に(Photo by Mark Kauzlarich)

この推測はプレスリリースで語られているものではないですが、南半球に位置するブラジル、そのブラジル出身のアルベルト・サントス=デュモン、そしてダイヤルの素材という3要素がこの不可思議なリワインドウォッチの背景にあるのではないかと僕もどうしても勘繰ってしまうのです。

価格: 583万4400円(税込予価) その他の詳細は、カルティエ公式サイトへ

グランドセイコー SLGW003 ブリリアントハードチタン
BY YUSUKE MUTAGAMI

Photo by Mark Kauzlarich

実際に会場に行ったという人も、日本からSNSや記事で新作情報を追いかけていたという人も、今年のWatches & Wondersは楽しめただろうか。僕は残念ながら会期中日本にいたのだが、日々津波のように押し寄せるリリースに目を通しながら遠いジュネーブの地に想いを馳せて過ごしていた。わずか2mm厚のフライングトゥールビヨン、世界最薄のCOSCウォッチに胸を躍らせ、3900mまで潜水できる金無垢のダイバーズに虚をつかれながら、このなかで実際に手に取って見られるとしたらどれがいいだろうと、1週間悶々としていたのだ。

もちろん、和田が紹介しているカルティエのリワインドや美しいブレスを装着したゴールデン・エリプスのように、その発想のユニークさや超絶技巧の粋に触れたいという好奇心から見てみたい時計はいくつもあった。だが、純粋な時計としての美しさという点で、グランドセイコーから発表された手巻きのドレスウォッチ、SLGW003は僕の心を強く打った。

Photo by Mark Kauzlarich

デザインのベースとなっているのは、1960年代から続くセイコースタイルの発展形として2020年に発表された“エボリューション9スタイル”。筋目と鏡面を組み合わせることで立体的な陰影を生み出したケースラインの内側では、ダイヤカットを施したインデックスと多面カットの針が燦然と輝いている。実はこのケースはグランドセイコー独自のチタン合金であるブリリアントハードチタンでできている。かつては初代グランドセイコーデザイン復刻モデルにも使われたこの素材はレギュラーモデルではこのSLGW003のみに採用されており、チタンならではの軽さに加え、SSの約2倍の硬度を持つ。ドレスウォッチにチタンと聞くと少々珍しく感じるが、ザラツ研磨による煌びやかな光沢はマーク曰くまるでホワイトゴールドかプラチナのようであるという。手巻きのドレスウォッチにもマッチするエレガンスを担保しつつも時計としての実用性も忘れな、“最高の普通”を標榜するグランドセイコーらしい選択に思える。有機的な質感の白樺ダイヤルとのコントラストも面白い。

Photo by Mark Kauzlarich

もうひとつの推しポイントとして、約50年ぶりとなる新作の手巻きムーブメントCal.9SA4が挙げられる。ツインバレルによる80時間のパワーリザーブにデュアルインパルス機構を備える自動巻きのCal.9SA5をベースとしているが、ただローターをとっぱらったというだけではない。ブリッジを含めた全体の4割を今作のために再構築し、100万円越えの時計にふさわしい美観を獲得した。手巻きムーブメントへのアレンジはケースの薄型化にも貢献していて、10mmを切る9.95mmとなっている。ただでさえ低重心で、つけやすさに定評のあるエボリューション9スタイルだ。薄さはドレスウォッチに欠かせない要素だが、素材の軽さと相まって着用感にも優れたパッケージになっているのだろうと思う。

とにかく合理的だ。既存のエレガンスコレクションが見せるひたすらにクラシックな魅力も捨て切れないが、個人的には革新性とのバランスもとったSLGW003はよりグランドセイコーらしい時計であるように見える。200万円以下の自社製手巻きドレスウォッチという記事もあったが、今同じ企画を実施したら採用される可能性は高いだろう。見た目やコンセプト的に派手なモデルだけが注目されるわけではない、というメッセージも込めて、僕はこのドレスウォッチを推したい。

価格: 145万2000円(税込) その他の詳細は、グランドセイコー公式サイトへ

アンジェラス インスツルメント ドゥ ヴィテッセ 60セカンド クロノ
BY KYOSUKE SATO

Photo by Kyosuke Sato

正直に言うと、実際につけたいと思う時計はほかにあった。初のルーセントスティール™モデルとなるショパールのL.U.C カリテ フルリエ、復活を遂げたパルミジャーニ・フルリエのトリック プティ・セコンド、そして複雑な工程を経て生まれる見惚れるほど繊細なダイアル、さらにケースデザインと構造に手を加えて進化したIWCのポルトギーゼコレクション。そうそう、ローラン・フェリエのクラシック・ムーンも実に心を引かれたが、どれもがそれぞれ魅力的で、どうしても甲乙を付けることはできなかった。そこで改めて自身の心の声に従い、“純粋に最も興味を引かれた時計は何だったか?”を振り返って心に浮かんだのが、このアンジェラスの新作だった。

一見しただけではクラシックな3針時計のように見えるが、インスツルメント ドゥ ヴィテッセのセンターセコンド針は計時用で、最大60秒間の平均速度を測定する短時間用クロノグラフとなっている。しかもリューズトップのボタンに操作系を集約したモノプッシャークロノグラフで、スタート・ストップ・リセットの操作はこのひとつのボタンで行われる。

直径39mm、厚さ9.27mmのステンレススティール製ケースに収まるのは、厚さ4.2mmの手巻き式クロノグラフ Cal.A5000である。このムーブメントは、アンジェラスの親会社にあたるラ・ジュー・ペレ(両社ともシチズンウォッチグループに属する)によって製造されているものだが、もともとは独立時計師のヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter)、F.P.ジュルヌ(F.P. Journe)、そしてドゥべトゥーンを立ち上げたドゥニ・フラジョレ(Denis Flageolet)氏らが設立したTHA エボーシュによって設計されたモノプッシャークロノグラフムーブメント。かつてはカルティエの「トーチュ」や「タンク」のモノプッシャークロノグラフ、ドゥ・ベトゥーンのクロノグラフ DB01といった一部のモデルで使用されていた(このムーブメントの権利はその後、旧ジャッケSAが取得し、のちにラ・ジュー・ペレへと変わった)。

Photo by Kyosuke Sato

2万1600振動/時、コラムホイールとキャリングアーム式の水平クラッチという極めて古典的な設計を持つ本作は、アンジェラスの歴史における古典的作品を復刻し、再解釈したラ ファブリックコレクションに新たに加わるもので、昨年リリースされたクロノグラフ メディカルに続く第2弾。同コレクションにふさわしいクラシカルなムーブメントだ。

インスツルメントドゥ ヴィテッセはふたつのバージョンで展開されているが、ひとつはエボニーブラック(黒炭色)のダイヤルにキャラメル色のカーフレザーストラップを合わせ、アプライドインデックスのアラビア数字にはロジウム加工を施す。もうひとつは、アイボリーホワイトダイヤルにミッドナイトブルーのヌバックストラップを合わせ、こちらのインデックスは黒の縁取り仕様。ともに時針と分針、そしてインデックスには夜光塗料が塗布されている。

Photo by Kyosuke Sato

現在のアンジェラスが復活したのは2015年(2011年にラ・ジュー・ペレに買収され、2015年にシチズンウォッチグループのブランドとして再スタートした)。当時は名門アンジェラスの復活を聞き心踊ったが、復活第1弾となった最初の時計は、かつてのアンジェラスの面影がまったくないアヴァンギャルドなデザインのトゥールビヨンウォッチ。その後もリリースされる時計は、いずれもモダンなデザインのプロダクトばかりで、だんだん筆者の興味は薄れていった。

往時を懐かしむ復刻モデルばかりを手がけることがいいとは決して思わないが、筆者がアンジェラスに求めていたのは、やはり本作で見られるようなヴィンテージウォッチを思わせる古きよき時代のデザインなのだ。新作はともに各25本のリミテッドエディションで、正直に言うと、ブランドにおいてメインストリームとなるモデルではない。だが、筆者はアンジェラスがこのようなクラシックなモデルをリリースしてくれたことを心から歓迎している。 おかえり、アンジェラス!

価格: 352万円(税込予価) その他の詳細は、アンジェラス公式サイトへ

エルメス エルメス カット
BY YUKI MATSUMOTO

Photo by Masaharu Wada

Watches & Wondersで披露されたエルメスの新作レディスモデル、“エルメス カット”は、洗練されたデザインと実用性を兼ね備えた時計だ。最大の特徴は、1時30分位置に配置されたリューズと、36mmのケースサイズである。このケースはステンレススティール、SSとピンクゴールドのツートン、各ケースにダイヤモンドがセットされた4種類で展開。特にSSのラバーストラップモデルは100万円を切る価格なのがうれしい。

一番心引かれたのはやはり、エルメスなりの解釈が加えられた一体型ブレスレットスポーツウォッチという点だ。主力のエルメスH08コレクションより丸みを帯びたフェミニンなケースシェイプを持ちつつ、スポーツウォッチであることがひと目で分かる。というのも昨年からショパール、シチズンといったラグスポテイストウォッチに魅力を感じていた私は、エルメス カットの純粋なエレガンスに新たな魅力を発見したのだ。エルメスが長年にわたり培ってきた技術と洗練された美学が、この新コレクションにも生かされていると感じる。


Photo by Masaharu Wada

また搭載されたクイックチェンジ機能により、ラバーストラップへの交換が容易に行える点も大きな利点だ。ラバーストラップは使いやすいホワイトや淡いグレーから、メゾンカラーのオレンジレッドやブルーといったエレガントな色彩が揃っている。時計自体は100万円を切る価格のため、購入者は様々なストラップを揃えたくなることだろう。

ひとつ気になる点は、ネイルをしている私が、3・9時位置以外にあるリューズを操作するのに少し手こずることだ。ただ操作のしやすさについてはモデルによって異なり、実際に手にとってみないとわからない点もある。またリューズ位置が独特であること自体が、この時計のユニークな特徴として際立っており、その操作性に慣れれば日々の使用においても大きな支障とはならないだろう。

価格: SS 、ラバーストラップは93万8300円(税込) その他の詳細は、エルメス公式サイトへ

カルティエ タンク ルイ カルティエ ミニ
BY YU SEKIGUCHI
今年のショーに対する見方は人それぞれで、単なる文字盤チェンジやバリエーションの追加が多くてがっかりしたという意見もあれば、手堅いラインナップを目にしてこの産業が浮かれ過ぎていないことに安堵したという声もある(僕は後者に賛成だ)。ここ数年のブームで過度に増大した高級時計のニーズはブランドにとって舵取りを難しいものにさせているのは明らかだが、2020年代のウォッチトレンドにおいて明確な勝者のひとりであるカルティエが、今年も前を向いてものづくりをしていることを確認できてよかった。その立役者でもあるトーチュ モノプッシャーが復活、和田君も上で書いているように、野心的な挑戦を独創的に表現したサントス デュモン リワインドなどは、ショーのヒーローピースとしての役割を十分に果たしただろう。

さて、今年僕は、シリル・ヴィニュロンCEOに直接インタビューする機会を得た(その全貌はまた記事にさせて欲しい)のだが、時計マニアの心をくすぐるモデルを毎年リリースしたり、メンズ・レディスの境目がないような時計を増やしたりと、全くベクトルの異なる動きは何が源泉となっているのか尋ねた。その答えはひとつのフレーズで表せるものではなかったけれど、この小さなサイズのタンクにその一端があるように思えた。

カルティエ時計コピー 代引きは言うまでもなくヴィンテージを熟知しており、現在の二次マーケットにも目を光らせている。それが名作たちの復刻のインスピレーションになっているが、もうひとつサイズの垣根も超えていく裏付けにもしていると僕は考えている。昨年のベニュワール バングルは世界中で男性が購入する例も多いとシリルCEOから伺ったが、それは、明確に「フェミニン」と「マニッシュ」を意識してクリエーションをしていないことも理由にあるだろうと語っていた。それは、このタンク ミニにも言えることだろう。

僕は普段、1980年代製のタンク ノルマル LM(Ref.78092)を愛用しているが、そのサイズは30×23mm。新作のタンク ルイ カルティエ ミニはひと回り小さい24×16.5mmだが、着用感には共通したものを感じて、僕にとっては普段使いするのに違和感がなかったのだ。ヴィンテージを愛用している人にもこの時計は意外と刺さるものかもしれない。ともあれ、サイジングやシェイプの観点から時計を生み出し、発展させていくのはこのメゾンの常套手段だ。「フェミニン」「マニッシュ」の境目がないならば、このような小さなサイズの時計にも搭載できる機械式ムーブメントの開発も進んでいて欲しい、というのは僕の願望も混じっているが、今後の展開を占う上でこのタンク ミニが生み出す結果は意外に小さくないのだと僕は考えている。

価格: 106万9200円(税込予価) その他の詳細は、カルティエ公式サイトへ。

チューダーからペラゴス FXD クロノ“サイクリング”が登場

チューダー プロサイクリングチームは、カーボンで覆われた新しいFXDクロノグラフを携えてジロ・デ・イタリアに挑む。

今週末、ジロ・デ・イタリア 2024がイタリアで開幕され、サイクリストたちは最初のステージであるヴェナリア・レアーレからトリノまでの140kmを走った。有名なジロ・デ・イタリアは1909年に初めて開催されたが、今年は特筆すべき新たな要素がある。それはチューダー プロサイクリングチームが、全長3400kmの厳しい21ステージのレースにブランドを代表して参戦することだ。その若いチーム最初のグランドツアーであり、その参戦を記念して、チューダーはペラゴス FXDクロノの特別バージョンである、ペラゴス FXD クロノ“サイクリング”エディションを発表した。マットなカーボンケース、チームをイメージしたカラーリング、60分目盛りの固定ベゼル、サイクリスト専用のタキメータースケールを備えた新しいFXDクロノグラフは、アリンギ・レッドブル・レーシングエディションのクロノグラフを継承しながら、自転車レースをテーマにしたその時計にすべて詰め込んでいる。

tudor fxd cycling edition
その中核をなす、この新しいFXD クロノグラフは、先代のレッドブルモデルと非常によく似ており、43mmのマットカーボンケース、自動巻きクロノグラフムーブメント、FXDのラインナップに共通するスポーティな焦点を備えている。固定バーのケース構造に、赤いアクセント(チューダーのブランドカラーとチューダー プロサイクリングチームのカラー)を効かせたブラックの文字盤、そしてブラックのファブリックストラップが配されている。ロレックススーパーコピーn級品代引き優良通販店自転車にインスピレーションを受けた進化で顕著なものは、60分固定のベゼル、200mから100m防水への変更、レーシングカーの一般的な速度ではなく、自転車の一般的な速度に合わせて調整された自転車専用のタキメータースケールの採用である。タキメーターを使用すると、ライダーは一定の距離の平均速度を計算することができる。

内部には、初代FXDクロノグラフによって確立されたものと同じチューダーのMT5813が搭載されている。ブライトリングB01をベースにした2万8800振動/時の自動巻きムーブメントで、約70時間のパワーリザーブ、6時位置に日付を配し、最大45分間のクロノグラフ計測が可能である。COSC認定を取得したMT5813は100mの防水性能で保護されており、クロノグラフ機能はレーストラックを周回するためではなく、サイクリング用に設計された専用タキメータースケールと連動して使用することができる。

tudor fxd cycling edition
チューダー ペラゴス FXD クロノ“サイクリング”の価格は74万300円(税込)であり、限定モデルはない。現在チューダーのアクティブなラインナップの一部となっている。

我々の考え
サイクリングファンにとってジロ・デ・イタリアは一大イベントであり、チューダーはこのイベントの公式タイムキーパーも務めている。チューダーは2022年から自身のプロサイクリングチームを運営しており(ファビアン・カンチェラーラ氏を直接サポートしている)、主要なイベントに参加するのは時間の問題であった。そして時計がその一部となることは当然だろう。私が興味深いと思うのは、かつてチューダーが提供していた最も実用的でプロ仕様のダイバーズウォッチであったペラゴスが、アリンギ・レッドブル・レーシングのような海上であれ、あるいはジロ・デ・イタリアのように陸上であれ、ブランドのスポーツ活動の延長として二次的な役割を果たすようになったことだ。

tudor fxd cycling edition
とはいえ、ザ・キャッシュアップ レッドブルチームのためにつくられたFXD クロノグラフが現在発売されていないことを除けば、予想外ではあるがFXD クロノグラフはセーリングとサイクリングの両方のプログラムのためのいいベースだと思う。この時計は、技術的かつ軽量でありながら、ブラックベイでは再現できないモダンさを提供しているが、チューダーの伝統を否定するほどではない。この動きに異論はないが、少し時間を巻き戻すと(アリンギ・レッドブル向けのFXD クロノグラフが発表されたのは2023年6月の終わりだったから、まだ1年も経っていない)、チューダーが“究極のモダンミリタリーダイバーズウォッチ”とうたうペラゴスのクロノグラフバージョンが、防水性を半分に落とし、ベゼルを完全に非ダイビング仕様にして登場するとは、予想だにしていなかった。

この時計に焦点を当て直すと、昨日チューダーがマイアミグランプリのためにInstagramで予告した時計とは対照的に、これは実際に購入できる時計である。純粋な商業製品として、ペラゴス FXD クロノ“サイクリング”エディションは水周りでの使用を想定していない時計のなかペラゴスの範囲をさらに広げており、それはペラゴスの純粋主義者たち(自分を含む)を動揺させるだろう。

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とはいえ、アリンギ・レッドブル・クロノのデザインとは異なり、直接的な自転車競技やジロ・デ・イタリアのブランディングはないので、伝統的なペラゴスの枠を超えて、チューダーの現代的なラインナップ(ヘリテージクロノもファストライダーもない)の範囲内に留まる場合、ブラックベイ クロノグラフではなくFXDを選ぶ決断は理にかなっていると思う。FXD クロノグラフはすでに外部のレーシングプログラムとリンクしており、カーボンケースの軽量性はプロサイクリングの要求(および材料科学)とうまく調和している。

おそらく、ペラゴスはチューダーのラインナップのなかでもニッチな存在であり、そのなかでもFXDはさらにニッチで、クロノはさらに限られた存在である。そのレベルだとペリー(ペラゴス)純粋主義者はダイビング用ではないペラゴスの動機に疑問を持つかもしれないが、このサイクリングに特化したモデルは、ぺラゴスへの強いこだわりを生かしつつ、ダイビングからブランドが真剣に取り組み続けているスポーツへとシフトさせた特別なモデルを形成するための正しい取り組みを行っている。

基本情報
ブランド: チューダー(Tudor)
モデル名: ペラゴス FXD クロノ“サイクリング”(Pelagos FXD Chrono "Cycling”)
型番: 25827KN

直径: 43mm
厚さ: 14.4mm
ラグからラグまで: 53mm
ケース素材: ブラックカーボンコンポジット
文字盤: ブラックとレッド
インデックス: アプライド
夜光: あり
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ブラックのファブリックストラップ、ピンバックル

ムーブメント情報
キャリバー: ブライトリングB01ベースのMT5813(COSC)
機能: 時・分・スモールセコンド、日付表示、クロノグラフ(45分積算計)
直径: 33.8mm
パワーリザーブ: 約70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 47
クロノメーター: あり

価格 & 発売時期
価格: 74万300円(税込)

2025年の新作チェックはもちろんのこと、ヴィンテージウォッチの最新動向も押さえておいて損はない。

会期後に実施された工房取材を終えて帰国したのもつかの間、筆者は会社近くのイベントスペースを訪れていた。5月11日と12日にかけて開催されるアンティコルム ジュネーブオークションの東京プレビューに参加するためだ。このプレビューにはオークションに出品される時計のなかから200本ほどが展示され、実際に手に取り見ることができた。また、ジュネーブからアンティコルム・ジュネーブのマネージングディレクター&ウォッチエキスパート、ジュリアン・シェーラー(Julien Schaerer)氏も駆け付けた。忙しい最中、取材を申し込むと彼は快く応じいくつかの質問に答えてくれたほか、彼が注目しているというお気に入りのロット(トップロットではない)についても教えてくれた。


アンティコルム・ジュネーブのマネージングディレクター&ウォッチエキスパート、ジュリアン・シェーラー(Julien Schaerer)氏。

佐藤杏輔(HODINKEE JAPAN)。以下、佐藤
最近のオークショントレンドや、マーケットについて教えていただけますか?

ジュリアン・シェーラー(JULIEN SCHAERER)氏。以下、シェーラー。
ブランド時計コピーn級品優良通販店「そうですね、いくつか異なる側面があると思いますが、まずひとつには懐中時計への関心が以前と比べて復活しているのが興味深い点です。大きな理由のひとつとしては、やはり懐中時計に見られるクラフトマンシップが挙げられると思います。そして最に注目されている点は、価格が一貫していること、アップダウンがなく安定している点が挙げられるでしょう。価格が安定していることは皆さんにとって安心材料となっているようです。懐中時計とひと口に言ってもさまざまなものがありますが、特別な脱進機や複雑機構に興味がある方と、エナメルコレクターに代表されるように、その素晴らしい装飾性に引かれている方と、大きくふたつのタイプに分かれています」


シェーラー氏が話すように、プレビュー会場にはその注目度の高さを示すように懐中時計がいくつも並んでいた。こちらはLot 369、ボヴェ・フルリエの懐中時計。中国市場向けに作られたエナメルと真珠、金銅製のオープンフェイス大型懐中時計。1850~1860年製。ルイ・デュフォーのジュネーブ工房によるエナメル多色絵画で、紺碧の背景に色とりどりの夏の花や葉の網目模様が描かれている。鏡像のペアになっているのは、輸送中にどちらかが壊れても納品ができるようするためだ。

予想落札価格:6万スイスフラン〜10万スイスフラン(日本円で約1030万円〜約1715万円)


Lot 591:パテック フィリップ ワールドタイム クロワゾネによるワールドダイヤル 懐中時計 Ref.605 HU DE。1943製、1946年11月に販売。

予想落札価格:100万スイスフラン〜200万スイスフラン(日本円で約1億7180万円〜約3億4355万円)


Lot 5377:ルイ・オーデマ ダブルトレイン、独立したデッドビートセンターセコンド、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、ムーンフェイズ懐中時計。1876年製。

予想落札価格:3万5000スイスフラン〜5万5000スイスフラン(日本円で約595万円〜約935万円)

佐藤
今年はラグジュアリー業界、特に高級品に関してダウントレンドにあると言われていますが、それについてはどのように考えていますか?

シェーラー
「うーん…。その質問については、何を前提にしているかが重要だと思います。つまりモダンウォッチの話をしているのか、それともヴィンテージウォッチの話をしているのか、ということですね。ヴィンテージの場合、下落傾向はそれほど顕著ではないと思います。ご質問のダウントレンドということで言えば、比較的新しい時計についてですね。一部の時計については、3〜4年という短い期間で急激な価格上昇カーブを描いていました。基本的にそのような時計はすぐに売り切れてしまい、手に入れることができないという傾向があったと思います。そのため、実際の供給量を上回る需要が生まれました。そして市場全体が値上がりしていたため、多くの人々が投機家として時計ビジネスに参入しました。ですが、市場が動き始めると、すぐにすべてを売り払った。つまり時計が大量に流入したのです。その傾向は逆転して、供給が需要を上回っています。結局のところ、ひとつ言えることは多くのヴィンテージウォッチの価格には大きな影響はないということです。市場は依然としてあり、顧客もまだたくさんいる。だから、オークション市場はいい状態が続くと思っています。少なくとも5年前、10年前に比べればいまはずっといい状況ですね」

佐藤
今回のオークションで注目すべきロットを教えてださい。

シェーラー
「僕のお気に入りということですよね? トップロットとは別のものになってしまいますが、僕のおすすめというか、好きなもの、ユニークなストーリーのある時計をいくつか紹介しましょう」

 順不同で、シェーラー氏がセレクトした注目のロットは以下のとおり。彼が言うように、いずれも興味深いバックストーリーを持った個性的な時計ばかりだ。

Lot 590:パテック フィリップ ワールドタイム Ref.2523

 パテック フィリップのRef.2523と言えば、同ブランドのワールドタイムのなかでも特に入手困難なもののひとつで、オークションにおいて常に多くの関心と注目を集めるレアピースの常連として知られている。

 パテック初期のワールドタイムは、ベゼルを手動で回転させるものだったが、1953年に都市表示リングを回転させる第2のリューズを備えたモデルを発表する。それがCal.12-400 HUを搭載したRef.2523だ。不思議なことにRef.2523の売れ行きは芳しくなく、結果ごく少量しか製造されなかったという。有識者たちによれば、Ref.2523はこれまでに26本しか作られなかったと考えてられている。パテックは永久カレンダーのRef.1518を281本製造したと言われているが、Ref.2523がいかに希少であるかが分かるだろう。アーカイブによれば、この個体は1953年に製造、1954年12月に販売されたもので、一連のムーブメント番号に従うと、これまでに製造された9番目のRef.2523であり、ギヨシェ装飾が施されたゴールドセンターを備えた個体がオークションに出品されるのはこれで4例目。そして文字盤に“Geneve”の署名が入っている唯一の個体であるようだ。アンティコルムの調査によれば、作られた26本のRef.2523のうち19本はすでに市場に出ており、このように新たに市場へとRef.2523が出てくることは歴史的にも極めて重要だという。

 この時計は、35年以上前にイタリアの所有者が中古で購入したのち、着用されずにほかの時計とともに保管されていたという。経年による緑青が現れてはいるが、イエローゴールド(YG)ケースは摩耗もほとんど見られず、ゴールドのギヨシェ装飾文字盤も良好な状態を保っている。

予想落札価格:100万スイスフラン〜200万スイスフラン(日本円で約1億7180万円〜約3億4355万円)

Lot 097:ロレックス Ref.3525 “モノブロッコ”

 Ref.3525は、オークションでもなかなかお目にかかれない時計のひとつだ。ロレックスがオイスターケースを採用した最初のクロノグラフ、つまりねじ込み式のケースバックとリューズを備えたオイスタークロノグラフのファーストモデルで、コレクターたちのあいだでは“モノブロッコ”の名で呼ばれている。ダイヤルはアーチ型に“ROLEX OYSTER”の表記が入るデザインで、比較的珍しいクラウンマークのないタイプである。

 このリファレンスは1939年から1945年までの6年間製造されたと言われているが、この個体はケースのシリアルから1938年頃に製造されたと推測される初期型。市場で見られるものとしてはホワイトダイヤルにステンレススティール(SS)ケース仕様のものが比較的多いが、ブラックダイヤルにピンクゴールド(PG)ケースという組み合わせが、この個体の希少性を高めている。

予想落札価格:8万スイスフラン〜14万スイスフラン(日本円で約1375万円〜約2400万円)

Lot 215:F.P.ジュルヌ トゥールビヨン・スヴラン

 1985年に独立し、細々と時計製作を進めていたフランソワ−ポール・ジュルヌ(F.P.ジュルヌ)は、1999年に限定20本の“スースクリプションシリーズ”トゥールビヨン・スヴランを製造した。そして同年のバーゼルフェアで、初の製品版(スースクリプションバージョンは通常製造品としてはカウントされないというのが定説)となるトゥールビヨン・スヴランを発表。それがこの“リファレンスT”と呼ばれる、第1世代のトゥールビヨン・スヴランだ。

 ルモントワール・デガリテ機構を備えたF.P.ジュルヌ最初の市販モデルで、2003年にルモントワール機構を搭載したトゥールビヨン・スヴランに、ナチュラル・デッドビートセコンド機構を加えた新世代モデルが登場するまで製造された。この個体は2001年頃に製造されたもので、ケースバックの刻印から91番目の個体であることが分かっている。ケースはプラチナ、ムーブメントは真鍮製で、ダイヤルはYG、PG、ホワイトゴールドの3種類があったが、スイスの顧客によって購入されたというこの個体は YG文字盤仕様である。

なお、F.P.ジュルヌのトゥールビヨン・スヴランについてもっと詳しく知りたいという方は、こちらの記事「F.P.ジュルヌ トゥールビヨン全史(ジュルヌ本人による動画解説付き)」を読むことをおすすめする。

予想落札価格:20万スイスフラン〜40万スイスフラン(日本円で約3430万円〜約6855万円)

Lot 095:ロレックス デイトジャスト Ref.4467 “スースプリクション”

Ref.4467は、ロレックスにおいてもっともアイコニックなデイトジャストのファーストリファレンスとして知られている。1945年にブランド創立40周年を記念して発表されたデイトジャストだが、ダイヤルに“DATEJUST”表記が入るのはRef.6105から。表記が入る前のファーストモデルということも注目に値するが、最大のポイントはそこではない。この個体が、スイスの新聞広告を通じてのみ入手可能だったと言われる最初の100本のうちのひとつ、“スースプリクション”モデルだったということだ。

アンティコルムによれば、この個体は975スイスフラン(当時)で新聞『ラ・スイス(La Suisse)』の広告に応じることによってのみ入手可能だったとされ、オーナーは紋章(この個体ではウィンストン・チャーチルが所有していた時計と同様の紋章が裏蓋に刻印されている)またはイニシャルをケースに入れることができ、すべての個体のラグとラグのあいだに1 〜100までのナンバーが刻印されていた(この個体はNo.046)。なお、過去にクリスティーズのオークションでは『トリビューン・ド・ジュネーブ(Tribune de Genève)』を通じて販売されたとするモデルも出品されている。

Ref.4467の最初の100本が各新聞広告を通じて販売されたのか、それとも各新聞ごとに100本のRef.4467をそれぞれ販売したのかは定かではないが、いずれにせよこの個体は製造されたRef.4467のなかでも初期の個体であり、さらにオリジナルのダイヤル、リューズ、ベゼルを保持している歴史的にも非常に価値のある1本となっている。

予想落札価格:1万スイスフラン〜2万スイスフラン(日本円で約175万円〜約345万円)

プレビュー会場で気になった編集部注目の1本
プレビューには多くの人が訪れていたが、なかでもひと際注目を集めているロットがいくつか見られた。そのうちのひとつが、このLot 134。パテック フィリップの手巻き防水クロノグラフ Ref.1463である。

Lot 134:パテック フィリップ 手巻き防水クロノグラフ Ref.1463

パテック フィリップ時計コピーn級品優良通販店のRef.1463は、ブランド初の防水クロノグラフで、同社がこれまでに製造したクロノグラフのなかで最も高く評価されているもののひとつである。ダストカバーとスクリューバック式の裏蓋を採用したフランソワ・ボーゲル社製の分厚い防水ケースを持ち、それまでのモデルに見られた角形ではなく、丸型のクロノグラフプッシャーが初めて採用され本格的に防水性が追求された。1940年代初頭から1960年代中頃までの約20年間という長きわたって製造されたリファレンスであるが、その製造数それほど多くはなく、一説には750本程度と言われている。

アーカイブによると、この個体は1953年に製造され、1954年10月に販売されたもの。若干分かりづらいがクリームホワイトとシルバーのオリジナルのツートンカラーダイヤルの6時側には、クロノグラフで名を知られている時計メーカーであり、当時ミラノで有名なリテーラーでもあったエベラールのシグネチャーがプリントされている。加えて、この個体は35年以上にわたってイタリアのコレクターによるプライベートコレクションとして長らく保存されていたもので、ほぼ使われた形跡がないと極めて良好なコンディションを保っているという点が、その価値を高めている。予想落札価格は、10万スイスフラン〜20万スイスフラン(日本円で約1715万円〜約2575万円)。現在、セカンダリーマーケットで出回っているものと比較してもコンディションはかなりいいようで、一体いくらで落札されるのか、非常に楽しみだ。

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